富山県高岡市から氷見の中心市街地へ流れる国道160号線。地方都市をつなぐ郊外部は、大手チェーンの店舗進出により、全国でも見られる”郊外幹線道路沿いの景観”を形成しています。それでも、いったん大通りを離れると、田畑や空の色彩が広がる”まちの原風景”を眺めることができます。国道160号線と二級河川の仏生寺川が交差する手前、窪(北)の交差点を左へ曲がり進むと見えてくるのは、今回ご紹介する有限会社 東海電気工業さんの事務所兼倉庫です。当社は、電気工事のなかでも”幹線工事”という業務を請け負っています。とはいっても、おそらく馴染みのない仕事ではないでしょうか。入社4年目で、会社の最年少にあたる東海涼平さんから説明していただきました。「一般的な電気工事といえば、住宅の蛍光灯やコンセントへの配線工事を思い浮かべることが多いと思います。私たちは、工場や大型ショッピングモールなど、多くの電気を必要とする施設で仕事を行っています」東海さんからお聞きした詳しい業務内容は、後ほど説明します。今回の『氷見で働く。』は、希少価値のある専門技術を身につけ働きたい方や、未経験からでも成長できる環境で働きたい方を募集します。" 幹線工事の専門性と人材不足 "さきほどの幹線工事について詳しく説明しますと、受変電設備(※1)から分電盤(※2)までをつなぐケーブルを幹線と呼び、幹線を通すためのケーブルラック等を設置する工事をいいます。幹線工事がなければ、工場内の空調機や産業機械を動かすこともできなくなります。そのため、非常に重要な工程といえるでしょう。「例えば、専用の機械を使い、ラック上へロープ(電線)を引っ張ります。そのロープを分電盤まで導いて結線し繋ぎます。そのため、特殊な道具を使ったり、高所作業車を使ったりして作業を行います」※1:電力会社より送られた高圧電気を、用途に応じた電力・電圧へ変える設備のこと※2:使用する機器・機械に電気を供給したり、動力盤や制御盤へ電気を振り分ける盤のこと(写真提供|東海電気工業)電気工事を請け負う業者のなかで、幹線工事を専門に行っている業者は数少ないのだそうです。そのため、大手電気工事会社からも声がかかり、大型ショッピングモールなど私たちが普段使っている施設の工事を手掛けています。「コロナ禍の影響もあって、県外周辺まで足を伸ばして仕事することもありましたが、主に県西部で仕事していることが多いです。業者間の繋がりがあるので、(コロナ禍で)仕事がないということは無かったですね」トラックの荷台に道具を載せ、現場へ向かいます。国家資格の1つである第一種電気工事士(※3)が必要なうえ、技術や経験などの専門性が重要視される幹線工事の仕事。業界では、5G通信設備の新設や、製造現場のFA(※4)化による改造工事などの需要が見込まれているとは裏腹に、人材不足の課題(※5)を抱えています。特に、東海さんのような若い人材は、ほとんど見かけることがないといいます。※3:工場や公共施設など、比較的大きな建物の電気設備工事が可能になる資格。この資格で認められるのは、最大電力500kW未満の電気工事作業※4:ファクトリー・オートメーションの略。産業用のロボットや工作機械などの導入により、製造業工場の自動化を行うこと※5:電気保安人材の中長期的な確保に 向けた課題と対応の方向性について|経済産業省(平成31年3月)から電気自動車(EV)用の充電スタンド工事 (写真提供|東海電気工業)「働いていて、同じ世代の人を見かけることはほぼないですね。40代後半より上の世代の方がメインで働かれている印象です。だからこそ、 若い人にチャンスある業界だと思います」東海電気工業さんの場合も、前線の方は全員50歳以上で、(東海さんのお祖父さんにあたる)取締役社長さんと一緒に働いてきた方々が活躍されているそうです。会社のこれからを案じたとき、東海さんは自ら率先して人員募集をするべきと感じたとおっしゃいます。" 自分のペースで成長していける環境 "専門性が高い分、技術や経験を得るには時間を要することが予想されます。東海電気工業さんでは、社内教育を充実させており、未経験の方でも安心して成長できる環境が整っています。東海さん自身も高校卒業後に入社し、未経験から少しずつ成長してきました。「例えば、最初から100のことを50できる人もいれば、20しかできない人もいると思います。成長度合いは人それぞれです。自分のペースで成長していけばいいと思っています」資格取得においては、会社負担で挑戦できるうえ、自社内の教育だけでなく、北陸電気工事グループの研修にも参加できる体制を整えているとのことです。「自分自身、今もベテランの方のように仕事ができるとは全然思っていないです。だからこそ、入社してくれた人から学ぶことがあったら学びたいですし、自分のできる範囲内でサポートしていきたいです。お互い学ぶ姿勢が大事だと思いますね」こうして伺いしていると、若い世代だからこそ持っている柔軟な考えや価値観が節々に表れているように感じます。「職人のイメージを変えたい」とおっしゃる東海さんに、新しい職人の姿についてお聞きしました。" メンバーの個性を生かせるように "仕事の選択肢が増えた今の時代、若い世代があえて職人(現場)の道を選ぶのは珍しいかもしれません。特に現場での仕事は、肉体・長時間労働のイメージがこれまでありました。しかしながら、東海さんの思う働き方をお聞きすると、”クリーン”な職人像が浮かび上がります。「昔の職人のイメージといえば、5人いたらリーダーが1人いて、あとの4人がリーダーからの指示を聞いて動くというものだったと思います。自分だったら、その5人全員がそれぞれの特技を生かせるようなチームにしたいです」現状は、社員さんが7人のため、ひとつの仕事を受注すると他から依頼された仕事を断ることがあるそうです。単に人数が増えるだけでなく、バラエティー豊かな人材が増えると、会社としてより成長することが可能になります。「優劣をつけることがあんまり好きじゃないんです。それに、年齢の上下は関係ないと思っています。色々な年齢層と、様々なスキルを持った人が集まるチームで、自分は後ろから背中を押すような存在でいたいです」今でも、先輩世代との関係性は良好で、風通しの良い雰囲気だそうです。「もちろん、厳しさはそれなりにあります。業務の中には、命に関わる仕事もあるので、集中する時はしっかり気を張らないといけない。それでも、仕事で分からないことがあると教えてくれますよ」先輩世代からの技術継承と次世代による新しい職人像のコラボレーションは、世代交代を迎えるこれからの時代において不可欠です。そのためには、若手からの積極的な声掛けが鍵となります。社員の大半が今後引退するという、ネガティブな印象を抱かれるかもしれません。しかし、東海さんのような意欲ある若手人材がいることは、ポジティブな会社の未来を示しています。" プライベートと氷見での暮らし "普段の業務では氷見市外での仕事が多いため、まちで過ごす時間は少ない一方、プライベートでは氷見の自然を満喫しているとおっしゃいます。「アウトドアが趣味なので、釣りをしたりキャンプをしたりしています。なるべくお金は使わないで、プライベートを楽しもうと最近は思っていますね」他にも、東海さんと一緒に入社された同期の方と食事へ行ったり、お祖父さんと温泉へ行ったりされているそうです。「自分は仕事が全てじゃないと思います。プライベートをどれだけ充実させるかが大切だと考えています」昔と比べ、現場での仕事はとても働きやすい環境になりました。それでも、安全には常に気を配り、緊張感を持って仕事する必要があります。自然豊かな氷見でのプライベートは、心の癒しに貢献しています。" なくなる仕事となくならない仕事 "最後に、自分の考えをしっかりと持ち、真っ直ぐな眼差しで話す東海さんに、会社のこれからについて伺いました。「社員みんなが楽しく、やりがいを持って仕事できるような会社にしていきたいと思います。時には、仕事へ行きたくないと思うこともありますよね。対話の時間を設けるなどして、長く勤めることができる会社であって欲しいです」" 長く勤めることができる会社 "最近では、AIなどの新技術によって、”なくなる仕事”と”なくならない仕事”の議論が行われるようになりました。電気という私たちの生活に不可欠なものを扱い、業界でも希少価値の高い東海電気工業さんの仕事は、これからも”なくならない仕事”と言われています。しかし、例え”なくならない仕事”だとしても、技術を受け継ぐ人材がいなければ、時代の流れと共に消えていってしまうでしょう。若い人たちが感じる”今”の価値観に自信を持ち、能動的に行動すれば、どのような仕事もカタチを変えて続いていきます。何が起きてもおかしくない時代で、明るい未来を保証することは誰にもできません。それでも、確かな技術を身につけられる環境と未来を切り開く仲間は、このまちに存在しています。(2021/4/15取材 文・写真:北條巧磨)※撮影時はマスクを外していただきました。<求人情報>● 電気工事士(見習い)