着物といえば「ハレの日を彩る特別な装い」そう認識されるようになったのはつい最近のことで、着物の起源は、平安時代の庶民が着ていた小袖(下着)まで遡ります。和服から洋服の文化が定着する明治・大正時代に至るまで、着物はケ(日常)の装いとしても親しまれてきました。現代になっても脈々と受け継がれる着物の文化。お宮参りや七五三、結婚式などの晴れやかな日に着るきらびやかな拵(こしら)えは、ここ氷見から真心を込めて届けられているのはご存知でしょうか。氷見市街から石川県境へ、次第に広がる田園風景のなか佇む平屋は「株式会社ラポージェ」の工場。着物や浴衣の仕立てを主な業務として、縫製機械の開発や産業観光など、様々な事業を営んでいます。会社の歴史は、創業者であり現代表の母にあたる白石末子さんが、1979年に「白石きもの店」を開いたところからスタートしました。たった1人の女性が始めた和裁、それも患った病のリハビリとしての和裁から、従業員を数十名も抱える会社にまで成長させたストーリーは、会社の魅力をより一層際立たせます。こうして、他が真似できない行動力と創造力溢れるアイデアは、2代目の” 姉妹 ”にも受け継がれました。代表取締役社長・白石小百合さん(写真右)、代表取締役副社長・櫻打麻祐さん(写真左)“ いいものを生み出す、唯一無二の技術 ”当社最大の特徴は、自ら開発した縫製機械を製造工程内に組み込んでいる点です。独自技術が丁寧な手仕事と合わさることで、国内縫製のクオリティを保つだけでなく、お客さん一人ひとりの要望を叶えています。白石さん「お客様の寸法に合わせて仕立てるための『印付け』という作業を省く自動走行ミシン『マークレスシーマ』などの自社開発機械を駆使して、正確かつスピーディに仕立てています」工場内でも大きな存在感を示す「マークレスシーマ」着物や羽織をデザイン的に組み合わせて、新たに命を吹き込む着物リメイクサービス「和っサイクル」(写真上)も、当社の機械技術があるからこそ成せる技。SDGsの取り組みにも活用されています。白石さん「先代から受け継いだ自社開発の機械は、他社にはない唯一無二の存在です。より良い商品をお届けするために必要なものは、できるだけ自分たちで研究開発して取り入れてきました。他にも、仕立ての工程で、最初の肝となる『地詰め』という作業も機械化しています。地詰めをしなくても着物は仕立てられますが、(地詰めを施すことで)仕上がりの美しさが格段に変わります。そうやって、一つひとつのプロセスを丁寧に行なっています」基本的に手を添えるだけで行える地詰め用機械「ニューシルクステディ」は、従業員の作業負担も減らしてくれます。“ 縫製の喜びを届けたい ”ものづくりの技術力が根底にある当社は、他の縫製分野の機械開発も行っています。例えば、カーテンのプリーツをつくる機械「プリーツフォーマー」(写真下)は、大手メーカーにも採用されているそうで、全国で8割のシェアを誇ります。現在は様々な事業を展開し、業界での立ち位置を確固たるものとしている一方で、数年前までは厳しい状況に立たされていました。着物業界の斜陽化が進み、国内縫製産業の雲行きが年々怪しくなるなか、追い討ちをかけるようにコロナ禍が直撃。一時期は、縫製事業を辞め、機械メーカーとして事業を一本化することも考えていたと白石さんは話します。白石さん「経営方針を変更すると言っても、なにも挑戦せずに縫製事業を終えるのは嫌だと思っていました。そこでコロナ禍の時期から始めたのが『ゆかた作り体験』などの産業観光事業です。以前、工場見学に来てくれたお客様に、反物から自分用のゆかたを仕立ててみませんか、という体験を企画しました。その時にとても喜んでもらえたので、もっと多くの人たちに喜んでもらえるのではないかと考えました。たった1日で浴衣を仕立てる体験プランは、自社の機械があるからこそ実現できます。先代が残してくれた技術に感謝ですね」「ゆかた作り体験」後に撮影した着付写真の数々が壁一面に並びます。櫻打さん「(「ゆかた作り体験」に参加した)ほとんどの方が、仕上がった浴衣をすぐに着たいと言ってくださいます。毎回記念に写真を撮るのですが、お客様の喜ぶ姿を見られるのはとても嬉しいです。さらに、お客様だけでなく、対応するスタッフも楽しそうなのが、体験をやってみて分かりました。普段は黙々と作業に取り組んでいるスタッフが、声を弾ませながら対応してくれて頼もしいです」苦境のなか新たな挑戦として始まった「ゆかた作り体験」。コロナ禍にもかかわらず、県内外からたくさんの人たちが氷見を訪れて、累計体験者数は190名を超えました。スタッフも一丸となり、お客様の笑顔を生み出しています。“ 女性がいきいきと働ける柔軟な環境づくり ”裁ちばさみで布地を裂く音が響く作業場を見渡すと、たくさんの女性スタッフが真剣な面持ちで業務にあたっています。従業員の勤務年数が長いのも当社の特徴だそうで、その背景には、女性も安心して働ける社内環境があるといいます。白石さん「女性がしっかりと働ける場所でありたいというのは、母の目標のひとつでした。その意志を継いで、スタッフ一人ひとりのライフステージに合わせられる環境づくりを常に整えています。ちなみに、私たち姉妹を代表取締役にしたのも、お互いをサポートし合えるようにと(母が)考えたのだと思いますね」櫻打さん「私たち自身、フレキシブルな社風のおかげで、子育てと仕事の両立を実現できました。だからこそ、個々に合った働き方を臨機応変に考えていきたいです。スタッフのほとんどは女性なので、どのような境遇の方でも溶け込みやすい環境だと思います」パート勤務からフルタイム勤務(正社員)に働き方を変更した新家陽子さんも、オープンで柔軟な社風のお陰で、子育てと仕事の両立を可能にしています。新家さん「女性がたくさん働いている職場なので、子育てとの両立ができるかなと思い入社しました。実際にいろいろと融通をきかせてもらってとても助かりました。仕事面では、もともと縫製に携わったことはなかったのですが、スタッフ同士話しやすく励まし合える雰囲気があるので楽しく続けられています。何よりみんなで頑張って仕立てた完成品を見たときは、誇りに思いますね」現在は生産部部長というリーダー的立場でもある新家さん。どのようなひとと一緒に働きたいか伺いました。新家さん「やっぱり向上心がある仲間と一緒に働きたいですね。時代の変化に合わせて、世の中から必要とされるものを考え出す素晴らしい社長と副社長がいるので、新しいことにも挑戦できる楽しい職場だと思います。私自身もできることがどんどん増えて、やりがいを感じています」“ お客様との「関わりしろ」を広げていきたい ”「ゆかた作り体験」などの新しい取り組みを通して、ラポージェという名が人々に知られるようになってきました。今後は、お客様と直接コミュニケーションができる機会をもっと増やしていきたいそうです。白石さん「将来的には、お客様とのやりとりをさらに増やすために、オンラインショップにも力を入れていきたいと考えています。そこでまず初めの一歩として、自分たちで考えたデザインがお客様に受け入れていただけるか試してみようと、『Makuake』というサービスを使って、“ denimアウターきもの ”や“ moji凛 ”といったオリジナル商品のクラウドファンディングに挑戦してみました」denimアウターきものmoji凛初めてクラウドファンディングに挑戦した結果、予想を上回る反響を得られただけでなく、新たな発見と学びがあったそうです。櫻打さん「お客様から直接いただけるコメントが新鮮で、一つひとつ読むのが楽しみでした。また2回目のクラウドファンディングでは、富山県内だけでなく全国からご購入いただけたことが自信につながっています」白石さん「自分たちの力で商品を売るための学びを重ね、お客様との直接的なやりとりができる自信と可能性が一気に広がりました。このチャンスをもっと活かしていきたいですね。私たちに任せていただければ、高品質の着物をしっかりと仕立てますと、胸を張っておすすめしたいです」.姉妹ふたりの力を合わせて、和の文化をアップデートしながら継承していく会社。それが株式会社ラポージェのハレの装い。 ラポージェの日常は、お客様にとっての一張羅を” 家族 ”と共に仕立てています。写真:北條 巧磨取材日:2022年10月24日※ 創業年数および入所年数は、取材当時のものです。<求人情報>● 縫製に係る作業