※ 後継者募集は終了しました。「その土地でしか味わえない料理と出会う旅」自然色が静まり返るトンネルを抜け、車窓に映る海原や木漏れ日の光景に、私たちの期待は一層膨らむ。澄んだ空気さえも前菜のごとく味わいながら、人里離れた建物にたどり着く。待ちに待った料理との対面。食との対話を繰り返し、場に根付いた風土までも咀嚼していく。近年の北陸では、その豊かな自然の恩恵を受け、食する以上の体験を提供する農家レストランやオーベルジュが誕生しています。偶然か必然か、それらは、辺鄙(へんぴ)な地にお店を構えており、地場の食材を使った、料理人の個性溢れる品々を提供しています。氷見は、田舎とはいえ、海・まちと山の距離が近いことで知られています。市街から車を少し走らせるだけで、田園や古民家など、古き良き日本の原風景が広がります。能越自動車道 氷見ICから車で約7分。国道415号と県道170号が交差する三叉路を、県道方面へ直進すると、「稲泉農園 カフェ・オーチャード」と書かれた小さな看板が見えてきます。建物へ続く道の両脇には、静かに春を待つ果樹が植わっています。築100年以上もあるアズマダチの立派な建物。「Café Orchard」は2013年にオープンしました。出迎えてくださったのは、稲泉さんご夫婦。この場所で、農園(稲泉農園)、レストラン(Café Orchard)、加工品の製造販売(果彩工房)を営んでいます。稲泉修さん(写真左)、蓉子さん(写真右)果彩工房で製造した山ぶどうジュースと各種果物のジャム稲泉さんの取り組みは、テレビや雑誌にもよく取り上げられ、県内外から多くのお客さんが訪れます。ところが、昨今の異常気象の影響を受け、”農家レストラン“として運営を続けるのが難しくなってしまいました。今回の「氷見で継なぐ。」では、レストランの運営を引き継ぎ、恵まれた環境を活かした料理を提供したいひとを募集します。“ 農家レストラン「稲泉農園 Café Orchard」が生まれた経緯 ”農園で採れた新鮮な野菜や果物を調理してお出しする、という農家レストラン「稲泉農園 Café Orchard」のスタイルは、どのようにして生まれたのでしょうか。稲泉修さんは、石川県金沢市の出身。農業関連の大学を卒業した後は、北陸に本社を置く建材メーカーの営業マンとして、全国各地で活動します。蓉子さんは氷見市生まれ。代々続く農家の長女として育ちました。結婚後は、専業主婦として、修さんを支えます。氷見へ暮らしを移すきっかけとなったのは、修さんが定年に近づいた頃。ひたむきに働いた会社員生活を振り返った時、第二の人生に対する不安が次第に大きくなりました。修さん|「若い頃は、営業で日本全国を回り続け、(キャリアの)後半になると、単身赴任が長くなりました。定年が近づくにつれて、『このままの生活で本当に大丈夫か?』と不安になりました」学生時代に農業に関する知識を得ていたこと、蓉子さんの実家が農業をしていたこともあり、第二の人生は、氷見で農業を営みながら生活する決断をくだします。当時は稲作が主流だったところ、修さんは果樹の栽培を始めます。独学がゆえに失敗も重ねながら、自分が理想とする農園を求め作業に励みました。稲泉農園では、有機および減農薬の方法で、多品種少量の果物・野菜を栽培しています。(写真提供|稲泉農園)修さんが農園を始めた数年後、カフェを開店するに至ります。そのきっかけは、蓉子さん自身の環境の変化にありました。蓉子さん|「息子が大きくなり、両親から『氷見へ帰ってこないか』と誘われて、氷見へ戻りました。5年ほど経った頃、母が脳梗塞で突然倒れてしまい、寝たきりの状態になってしまいました。それから16年間、介護を頑張ってきたのですが、父と母が相次いで亡くなると、心がぽっかりと空いてしまいました。家族のために介護する生活が、来る日も来る日も続いたので」両親との別れから2年の月日が経ち、心の整理が着いたタイミングで、修さんから「カフェをやってみないか?」と提案されます。蓉子さん|「日頃から、(修さんが栽培した)新鮮で美味しいものを、一番最初に食べていました。なので、『農園で採れた季節の食材を、一番美味しい食べ方で召し上がっていただきたい』、そう思いカフェを始めました」おまかせ野菜ご膳|メインプレートカフェの運営は初めてだった蓉子さん。開店当初は、パンに合うメニューを作ってみたり、試行錯誤が続きました。現在は、季節に合わせた和食を中心に、農園で採れた旬の果物をスイーツにして提供しています。おまかせ野菜ご膳|天ぷら蓉子さん|「特別な技術を持っているわけでないので、旬のお野菜や果物を使い、手間暇かけて調理しています。子供から大人まで、みなさんに『美味しい』と分かってもらえる料理を心がけています」カフェ開店当時はまだ、農家レストランの存在が珍しかったため、各種メディアからたくさんの取材を受けます。さらに、6次産業化の流れと相まって、「稲泉農園 Café Orchard」は定着していきます。“ レストラン運営で感じた嬉しさと自然と隣り合わせの厳しさ “現在のお店は、蓉子さんを含めた3名(パート2名)で運営しています。日々の仕事で嬉しさを感じたエピソードを伺いました。蓉子さん|「やっぱり、お客さんから『優しい味でした』とか『カラダがすっきりしました』と言ってくださると嬉しいですね。以前、野菜が全然食べられない小学生の子が来てくれた時に、料理をぜんぶ食べてくれました。どうしてか分からないですが、自然なものは体にすーっと入っていくのかもしれませんね」外国人の方が来店した際は、「食材の色が綺麗ですね」と言われたことも。農家レストランの魅力は、自家農園で収穫された食材があってこそ成り立ちます。ところが、異常気象の影響で、農園を維持管理するのが困難な状況になってきているそうです。修さん|「最近は本当に厳しいです。高温や長雨が続いたり、数十年に一度の大雪が降ったり、毎年のように悩まされ続けています。農園を始めた頃は、涼しい環境に適しているさくらんぼやベリー類が、たくさん収穫できました。しかし、地球温暖化の影響と思われる異常気象のため、思い通りの収穫量を確保できない年が多くなってきています」季節の果物を完熟させてから収穫するのが稲泉農園の特徴。ベリー類では、富山県内初のエコファーマー認定を受けました。(写真提供|稲泉農園)稲泉農園では、土壌や果樹にできるだけ負担をかけない農法を採用しており、(異常気象などで)ひとたび管理が行き届かなくなると、病害虫などの被害が連鎖的に発生します。その結果、収穫量は大幅に減少してしまいました。従来の方法が通用しなくなった今、農園、レストランともに、新しい道を模索する時期が訪れています。「異常気象に耐えられる作物をつくるのが、今後の課題です」と修さん (写真提供|稲泉農園)“ レストランの設備全般をリースする形での引き継ぎを “稲泉さんとしては、その土地が育む食材をレストランで使うことに価値を見出せる料理人に引き継いでもらうのが、理想の形です。しかし、「稲泉農園 Café Orchard」のすべてを引き継ぐのは、負担がとても大きいと予想されます。そこで、農園の方は、修さんによるサポートを受けられます。修さんと協力すれば、自分がほしい食材を一緒に栽培することも可能です。また、氷見には、自然の声に耳を傾ける農家さんが多数いらっしゃいます。その方たちと繋がれば、料理の可能性はさらに広がるはずです。蓉子さん|「自分たちですべての食材をつくらなくても、地元でいいものをつくる農家さんから、少しだけ分けてもらう方法も今はあると思います。他の農家さんとも関わりながら、自分がやりたい料理を表現してほしいです」これまでお伝えしてきた事業にくわえ、稲泉さんは、ジャムやジュースなどの製造販売も行っています。そのため、今回の案件は、レストランの設備全般をリースする形での引き継ぎとなります。“ 田舎暮らしの良さを感じられるひとと出逢いたい “氷見で育った蓉子さんは、田舎暮らしの豊かさを感じられるひとに引き継いでほしいといいます。蓉子さん|「静かな住環境で感じる季節の移ろいは、心休まります。私自身、春の道端に草花が生えていたら『嬉しいな』と思うのですが、似たような感性のひとに来ていただきたいですね」氷見には、豊かな自然だけでなく、歴史・文化も根付いており、田舎の営みが今もなお残っています。修さん|「僕らが今やっているのは、田舎でなかったらできないことです。氷見には、海あり山あり平地ありの地形を活かした産業がいくつもあります。それらをうまく組み合わせると、氷見はレストランをするのに最適な地域だと思いますよ」氷見で生まれ育ち一度外に出たからこそ感じる氷見の魅力と、全国を巡りさまざまな土地を見たからこそ分かる氷見の魅力、どちらの言葉にも深みを感じます。今回の案件は、自然と食材に恵まれた地方へ移住して、自身のお店を出したいと考えているひとにおすすめです。氷見市では、そのようなひとに向けたサポートも充実しています。住まい・暮らしに関することは「氷見市IJU(移住)応援センター・みらいエンジン」が、引き継ぎ後の経営に関することは「氷見市ビジネスサポートセンター・Himi-Biz」が、親身になって応援します。その他、移住や創業に関する補助金も用意されています。詳しくは、下記の市公式HPの専用ページからご覧ください。・住まい・移住に関する補助制度について|氷見市公式・氷見市の創業者向け補助金について|氷見市公式“ 恵まれた環境だからこそ覚悟を持って ”最後に、稲泉さんご夫婦から引き継ぎたいと思ったあなたへ、メッセージをいただきました。修さん|「今は、都会であろうが田舎であろうが、場所は選ばないと思います。大事なのは誠心誠意。愛情を持って物事に向き合えば、必ずお客さんは来てくださいます」蓉子さん|「厳しく聞こえるかもしれないですが、覚悟を持って来てもらいたいです。北陸の気候は、暮らしやすい季節とそうでない季節があります。田舎特有の嫌なこともあるかもしれません。そういうのも全部含めて、氷見を好きになって来てほしいです」今ここに恵まれた環境があるのは、氷見の地形がもたらした自然美だけでなく、稲泉さんそして先人による手仕事があったからこそです。変わりゆく自然環境に身を委ねて、自分の力量を試したいひとをお待ちしています。(2022/1/28取材 文・写真:北條巧磨/Himigraph)※ 取材時は、新型コロナウイルス感染症予防を十分に行いました。<基本情報>・事業者名稲泉農園 Café Orchard・所在地富山県氷見市上田1661(Google Mapsへ)・代表者稲泉修・営業時間<平日>午前11時30分 〜 午後2時30分<土日>午後11時30分 〜 午後16時※ 冬季休業あり※ 営業開始は3月初旬の予定・定休日木・金曜日・HPhttp://www.ina-farm.com・その他引き継ぎに関する諸条件、引き継ぎ後の運営方法などは、稲泉さんと要相談になります。※ 事業の引き継ぎをご希望の方は、下記の「ご応募・お問い合わせ」ボタンよりご連絡ください。後日、弊サイトよりご案内いたします。